『ムーミン展』

大阪心斎橋・大丸ミュージアムで開催中の『ムーミン展』に行って来ました!

会場内撮影禁止につき会場や展示物の画像はありません。
これは会場へあがるエレベーターの中のポスター。(そんなとこ撮るなよ!)

図録も買ってきましたが、正直原画とは全然違います。
原画の持つ力に浸り、心をつかまれ、揺さぶられ、酔い、熱を帯びた脳みそで会場を後にしました。


は〜っ、すごかった。
すごくよかった。


(ここより先、ネタバレあり。まだ行ってなくて、まっさらな状態で原画展を見たい!という人は読まないでください)


招待券をもぎ(ちぎ)ってもらい、ドキドキしながら会場に入りました。
ムーミン谷を訪れるチャンスを与えられたらこんな気持ちになるかもしれません、正直ちょっと怖い(何故だろう)。
まずはムーミンの立体像がお出迎え。
博物館の写真では見たことがあるかも。レジン?石膏?何で出来ているのか気になります。これなら頑張ったら作れるかもしれないな、と何故か思ったりしました。作れるわけもないのに!


まずはTooさんに以前ポストカードをいただいた静物画が展示してありました。
それから水彩の淡くて暗い風景の中で漕ぎ出す、真っ黒のムーミン(の原型?)の絵。
続いて、ムーミン黎明期のガルムの挿絵。
そこですでに圧倒されていました。


水色で着色された冬の景色の表紙の挿絵から目が離せなくなりました。
白(基本、紙の色。一部白での着色あり)と黒(ペン)と水色(水彩)だけで
陰影、温度、色彩…こんな風に雄弁に、深遠に、表現できるのかと…
こういう絵を見ると、いつものことですが、そしておこがましいことですが、自分の才能のなさに悔しくてたまらなくなります。別に絵の道を志しているわけではないのに…人の心をつかんで揺さぶってひっくり返す力のない自分が情けなくなってしまいます。
私はただの、傍観者でしかないのだと思い知らされます。
会場に入るときに感じた、かすかな恐れの気持ちは、トーベ・ヤンソンの原画を見るとこういう気持ちになることがわかっていたからだと思う。


面白いなぁ、とクスリとさせられたのはどの絵にも小さな小さな小さなムーミンがいたこと。本当に、ぼんやり見ていたら見過ごしてしまいそうな極小のムーミン!(赤い表紙の挿絵など、それなりにムーミンが大きいものもありました)
表紙になった赤い色のついた絵には、トフビフらしき生き物や、スニフっぽい生き物たちもいました。
ここに小さなムーミンが登場したことに、
どんな意味があったのだろう?
と展示をさかのぼって時代背景などの書いてある掲示を読み直したりしました。
サイン的なものなのか?
その小さなムーミンが少しずつ丸みを帯びてくることにも何か意味があったのか?
いろいろな疑問を持つのは見る側の勝手だと思いますので、
的外れな疑問だったら答えを教えてくださいね。


不思議の国のアリス』の挿絵を見つつ、次の展示へ…
ムーミン黎明期の原画だけでも、そのように打ちのめされていたのに、ここからが本番だなんて!
会場には何点かの立体模型も展示されていたのですが、正直チラっと見ただけで
原画にばかり集中してしまいました。
スノーランタンが光ってたなぁ、人形の服装がかわいかった、みんな帽子をかぶってたなぁ…くらいしか覚えていません。
しっかり作りこまれて、ムーミンの世界観がちゃんと表現された立体模型だったので、
次に行ったら今度はちゃんと見よう…


ムーミン原画の展示は、作品ごとにまとまって古い順から並んでいます。
まずは『小さなトロールと大きな洪水』の原画。
見慣れた絵にちょっとほっとします。(笑)
ただ、それをじいっと食い入るように見ていると、印刷された本からはまったくわからないものが見えてきます。
下絵を鉛筆で書いて、推敲し、清書をした後、消しゴムで下絵を消した跡。
何度も何度も書き直したり、印刷所への指示?なのか文字が書き込まれたような跡も随所に見られます。
それからわかっていたはずなのにやっぱり驚いたのが
ほとんどの絵の説明に
「インク画」と書かれていること。
この木が、この岩が、この水の波紋が、インクで描かれているなんて。
どこのメーカーのものを使ってたのかしら?(私も使ってみたい!)
何mmくらいのペンなのかな?インクを吸い上げて使うようなやつだろうか。ところどころで線の太さが変わっている箇所などはインクを吸い上げるタイプかもしれないな。
この繊細な線は?
この力強い線は?
中には水彩っぽいにじみのある絵があったのに、それにも「インク画」。水でぼかしているのだろうか…
水墨画のような濃淡、ムーミンたちの不安な気持ちを表現するかのような奥深く、暗い森…
すごいなぁ、すごいなぁ。


楽しいムーミン一家』、『ムーミン谷の彗星』…とひとつひとつの原画をじっくりと眺める。
ところどころに修正液なのか、白インクなのか、上から塗りこめている箇所がある絵があり
興味深く見る。


このあたりになると、様々なグッズに使用されているお馴染の原画が出てきて気持ちがハイになってきた(私が)。
すると、いきなり有名な「潜水ムーミン」がどーんと2枚!
2枚!?
全く同じ構図なのに全く違う絵。どちらかが水彩とかでもなく、色つきとかでもなく、モノクロで、ペン画なのに違う絵。
ええ〜〜っ!?
片方は前述のにじみの手法を、片方は本のカットでお馴染のインク画。
同じ絵なのに何故2枚あるんだろう…
特ににじませてあるほうの絵ははじめて見たこともあり、細かいところまで時間をかけてじっくりと見る。
泡は白インクで上から描いてある。
ムーミンがちょっとスリムだ、同じ年に描かれているけど、こっちのほうが先に描いたのだろうか?
面白いなぁ、面白いなぁ…
どんどん先を見て、この謎の理由が知りたいのに、一枚一枚をゆっくり見たくもあり、
なかなか先に進めない。


『彗星』の絵はやっぱりどれもとても好き。本を1冊選ぶなら迷わず『彗星』と思うのは、『彗星』の挿絵が特に好きだからだ。(もちろんストーリーもだけど)
エーケルンドのタオルにもなっている(「Bat」)暗闇をムーミンスナフキン、スニフの3人が歩いていくシーンなどは圧巻。
ペン画でこの闇と霧の濃淡を出すには、かなりの周到な用意と緻密な計算が必要なのではないか。
トーベ・ヤンソンは、こういう絵を描く時、どこから描きだすんだろう。
キャラクターから?手前から?油絵みたいに奥からではないよね、きっと。
暗闇の中にムーミンがぽつんといる図というのは、ムーミン(しいては物語を読んでいる人間)の感じている恐れ、寂しさ、心細さを表現すると同時に、何故かムーミンに光があたっているように見える。
暗い、冷たい、過酷で孤独な世界の中で、そこには暖かいものがあるのだという風にも見える。
ムーミンが少しずつ丸っこくなっていったのも、その暖かさのせいなのではないかと感じた。
彗星が終わった後、絵は一転して真っ白な背景になる。
白という色は、無ではなく、光や暖かさなのだと原画を見ているととてもよくわかる。


次の『ムーミン谷の仲間たち』の展示は、今回の『ムーミン展』全体の展示の中で、もっとも興味深く見たひとつだった。
「習作」と呼ばれる、おそらく下書きや構想段階のラフのようなものが展示されていたからです。
これは原画展や博物館ではないと見られない、貴重な展示で、これだけを見るためにお金を払ってもいいくらいすごいです。


例えば、フィリフヨンカとガフサ夫人のお茶のシーン。
この1カットを描くまでに、トーベ・ヤンソンは何度も何度も下絵を描いている。
部屋の形、窓の位置、大きさ、数、形、飾りの形、空の色、雲の形、光の入り方、お茶を飲むテーブルの位置、イスの形、テーブルクロスの形、テーブルに置いてある花の大きさ、種類、床板の模様、床の敷物(虎?)のありなし、シャンデリアのありなし…
自分が表現したいと思う世界を、ここまで綿密に検証し、試作を繰り返し、手を動かし続けていたかと思うと、本当に驚くべきことです。
私も普段仕事であれこれ考えることも多いのですが、ここまで満足いくまで何度でも!というほどの強い思いはありません。
いつも「まぁこんなもんかな」と、ある意味妥協している部分があるかもしれない…
頭が下がる、というか、はなっからトーベ・ヤンソンの足元にも及びませんが、
及ばないのは才能だけではなく、ひとつひとつの仕事に対する情熱だったのだ、と痛感します。
『仲間たち』のコーナーにある何点かのレイアウトやアングルの違う「習作」を見ていると
本に載っている挿絵の見方が変わってきます。


このひとつひとつの線が
このひとつひとつの点が
すべて完全に納得し満足して、描かれ、引かれたものだとわかり、今まで感じていた感動とはまた違う尊敬というのか、畏怖というのか、そういう気持ちになります。
『仲間たち』のイラストは、
『彗星』のイラストとはペンを変えたのかな?ささっと描いたようなタッチで、これはこれで味があって好きだなぁと思っていたのですが、一連の習作を見て
がらっとイメージが変わりました。
構図や配置に完全に納得し、満足した上での「ささっと」の絵なんだとわかってからは
展示をさかのぼって見直してしまいました。


次の『ムーミン谷の夏まつり』と『ムーミン谷の冬』の挿絵を見て
何となく線のイメージが急に変わったなぁと思った。急にわかりやすくなったというか、整理されたというか。作品ごとに絵だけを集中して見ていると、物語の挿絵として絵を見ていたときより
そういうことが浮き彫りになってはっきりしてくる。
イラストが描かれた年代を、会場を行ったり来たりして何となく確認しながら進む。
もしや…と思って、最後に展示してあったコミックのコンテのページとの年代を照らし合わせると、
ビンゴ!
見事にコミックス連載の年代とかぶっていたので、たぶん、漫画としてわかりやすい絵を描いていた時代なのだと思う。
(単に筆致の変化かもしれないけど…ロングランのコミックスなどで、主人公の顔や絵の雰囲気がどんどん変わっていくのは、日本の漫画家さんでもよくあることですし…)
『冬』の展示コーナーでは、私がもっとも好きな絵のひとつである
ローブを着た雪の中のムーミンの絵があった。
この絵はTooさんから「雪は上から白で描かれていたかも」みたいな前情報をいただいていたので
実物を観るのをとても楽しみにしていた1枚。今回の展示で来日していてよかった!
そうかそうかこれか!
と目的の絵を見つけて、上から下から左右からじっくり眺めること数分。


…これって、もしかして…


白い紙(ではないかもしれない、もっと硬いもののような)の上に黒インクでベタ塗りした後、線を削って描かれてるかも…


何となく、水浴び小屋が黒の上から彫っているような気がするのと、
ムーミン!完全に黒の上から白インクでベタ塗りされているのが、原画だとはっきりわかるんです。
雪の1ひら1ひらもインクをのせている感じ。
下に黒いベースのようなものがあるような気がする。


実はその前に展示してあった、暗闇の中の椅子の下ムーミンとおしゃまさんの絵もたぶんそうだ。黒の下地を彫った白い線で描かれていると思う。(正直言うと、硬質な黒い板のようなものを削りとって白い色を出しているようにも見えるんだけど、エッチングではなく「インク画」となってるし…)
そしてローブムーミンの後の、
猛吹雪の中のムーミンの絵も、たぶん。


これはすごい。これは絶対図録や、本の挿絵ではわからない。
実物を観ないとわからないと思う。(違ったら申し訳ないけど…)
面白すぎます…ああ、本当にきてよかった…


『冬』の展示は、他にも印刷所への挿絵挿入の場所の細かい指示書(ボールペン)など
があり、非常に興味深く、立ち止まっていた時間は一番長いコーナーだったと思います。


ムーミンパパの思い出』、この展覧会のイメージにもなっているパパのカット発見。
本の表紙でも、スウェーデン版、イギリス(英語)版、フィンランド版、と違うカットが展示されていました。
私はまだムーミンに関しては日本語版を読むにとどまっているので、オリジナルの言語の本を集めることはしていないのですが、他の作家さんの本で10か国語ほどのバリエーションで持っているものがあって、そちらの本の表紙や装丁の中では
「これは本当に作家の意思なのだろうか?」と思うほどよくないものもあります。
ですが、ことムーミンに関して言えば、トーベ・ヤンソンが言語ごとに異なった表紙を描いているということは、きちんと管理しているということがわかります。
全種類欲しいなーと思うのすが、残念ながらスウェーデン語もフィンランド語もまったくわからないので
難易度が高そうです。
こちらにはみんな大好き、リースの絵の展示や、谷口千代さんに送られたお礼の手紙(リース柄)の
展示(実物ではなくパネル)もあります。これはトーベ・ヤンソンの所有していたオリジナルの便箋(絵をコピーして手紙に使っていた)なのかな?
この柄の便箋があったら欲しいし、少しは筆まめになれるかもしれないんですが。


ムーミンパパ海へ行く』の展示でもすばらしい習作がありました。
『仲間たち』のお茶のシーンは、基本的にほぼ同じアングルからの見え方の検証だったのに対し、
『海』の習作の中には、シーンのフレーミング(サイズ)の寄り引き、まったく逆からのアングルや、光を入れてみたり抜いてみたり、登場人物のフレーミング
まるで映像のアングルを決めているかのような習作が展示されていました。
「この習作のポストカード欲しいなぁ」と思ったのですが、「でも、ないだろうなあ、マニアックだもんな」との予想通り、やはり習作のポストカードはなかったです、残念。


他にも、これも私が好きなシーンなのですが、ムーミントロールとモランが海辺で徐々に心を通わせていくシーンのカットが3種類あったり。
同じなのは、モラン、ムーミンカンテラと月の位置だけで
光と影、雲の形、空の色…さまざまなパターンで描かれており、私にしてみたらどれもあのシーンにぴったりなんだけど、何かしっくりいかないものがあったのだろうか、と
モランやムーミンの会話やムーミンの気持ちを推し量りながら絵の前で立ち止まってしまいました。


ムーミン谷の11月』のコーナーでは、桟橋や橋の絵がまとめて展示してあったりと
(こういうの好きなんだよなぁ)見ごたえがありました。
少しはかない感じのタッチになってきているような…
『さびしがりやの クニット』の展示もあったのですが、すべてモノクロでした。
びっくりしたのですが、ものもとはモノクロ画なのでしょうか。(すみません、あまり詳しくないもので…)
それともこれも習作のようなもので、後からカラーで描かれたものが、今絵本になっているものなのでしょうか?
展示ではそのあたりのことは触れられていませんでしたので、疑問のまま宙に浮いています。
おわかりになる方がいらっしゃったら、ぜひ教えてください。気になります。


最後にコミックスの展示。
このコーナーではとっつきやすいからか、展示の前に人が群がっていたのであまりじっくり観られなかったけど、ひとつわかったのは
ムーミンコミックスで毎ページに出てくる、コミックスのフレームの縦ラインがカトラリーになってたり、花の茎や木になっていたり、という手法。
これはペン入れの段階でやっていたのだということはわかりました。
展示では、完成した現地語バージョンのコミックスもありましたが、図録には日本語版のみが掲載されていました。
コミックスの前に詳細不明の「新聞挿絵」という絵が展示されていたのですが
ムーミン童話にもないストーリーの挿絵のようで(ご先祖様が生き返る話かも?と説明されていました)
これのポストカードが欲しいのですが…
タンペレに行けばあるのなら、タンペレに行きたい!


最後に谷口さんの紙粘土作品2点(だったかな、興味ないのでチラッと見ただけ。目録にはたくさん載っていたけど。)と、ビデオ上映(混んでいたのでパス)がありました。


もう一度最初まで戻って、人がいないところと、自分が特に気になったところをじっくり見てから、名残惜しかったのですが会場を後にしました。


金曜日夕方だったからか、思ったより混んでいました、が、この調子だと土日はゆっくり見れないくらい混みそうだから、何としてでも今日までに時間を作りたい!と思っていた。(土日はさむとグッズもなくなりそうですしね)
何とか週末前に行けてよかった…
だらだらと書いてしまいましたが、これがはじめて、まっさらな気持ちで、前情報もいっさいなしでムーミン展を見た第一印象と感想です。
思ったこと、疑問などを展示順に書き連ねてみました。
私はあまり時代背景、トーベ・ヤンソンさんの生い立ちや思想などを知りません。
だからファンにとっては「そんなの当たり前じゃない!」って疑問なども書いているかもしれず、読み苦しいとことも多々あるとは思うのですが
とにもかくにも、原画をはじめて目の当たりにした興奮と感動を
書き止めておきたかったので、長々と書いてしまいました。

大阪での開催は4/5まで。
小学生は無料ということなので、息子を連れてもう一度行きたいです。
東京での展示ももちろん見に行きますよ!
本当にすばらしいかったです!